風土と知恵の重なるその先に。都農ワインと月のおいしい関係。
見出し画像

風土と知恵の重なるその先に。都農ワインと月のおいしい関係。

その昔、太陰暦(月の満ち欠けの周期を基にした暦)が採用されていたように、月のリズムというのは、私たちの暮らしに関係が深いことがわかります。

中秋の名月、お月見のシーズンが近づいた秋のはじめ。 こんな季節にぴったりの、月にまつわるエピソードを探していたところ、宮崎県都農町に、毎日空を見上げ、月を観察し続けながらものづくりをする人を見つけました。『都農ワイン』の醸造家の赤尾誠二さん

なぜ、月を観察し続けるのか?ぶどうの栽培と醸造を行う赤尾さんに、月とワインの関係性や、ワイン作りについてお話しをお聞きしました。

町おこしからはじまったワイナリー 

宮崎空港から約1時間。人口1万人の素朴な街にある『都農ワイナリー』。都農町産100%のぶどうと、宮崎の温暖な気候や日照時間など、豊かな風土を活かして表現されたワインは、世界からも高く評価されています。

しかし、「雨の多い宮崎はぶどう栽培に適さない」と言われてきました。都農の年間降雨量4,000ミリ以上。世界のぶどう産地の5~8倍もの雨が降るのです。さらに、収穫期の夏には九州を台風が襲い、ぶどうたちも強風や大雨の大きな被害を受けます。

画像1

一体なぜ、一筋縄ではいかない土地でぶどう栽培とワインづくりが行われているのでしょうか?

その背景は、農業振興による町おこしのためでした。もともと都農町は梨の栽培が主流でしたが、台風の被害を大きく受ける梨に代わって、戦後まもなくぶどうの栽培が始まります。宮崎のぶどう栽培は、南国の温暖な気候から、他の産地と比べて1ヶ月ほど早く進むため、早い時期に出荷できるのが強み。しかし、シーズンを過ぎると売れなくなり、その対策としてぶどうに付加価値をつけようと、1980年代にワイナリー構想が生まれます。そこからワイン作りが始まったのが1996年のことでした。

自然と人とが織りなす魔法。知恵と風土が生み出すワイン。

ぶどう栽培の適さない土地で、どのようにして世界で評価されるほどのワインを生み出してきたのか?その秘密は、都農ワインの「研究力」に隠されているのではないかと感じます。

雨量が多くぶどう栽培に適さない天候、ぶどうが必要とするカルシウムやマグネシウムなどのミネラル分が乏しい土壌・・・・。決して恵まれた環境ではなく、不適地という厳しい土地柄のもとで生みだされる、『奇跡のワイン』。

その裏側には、ぶどう作りやワイン作りの常識に囚われず、最先端の技術を取り入れながら、土地の環境をくまなく研究する。逆境を逆手にとり、自然の恵みと、知恵を組み合わせながら、ワイン作りをする人たちの姿がありました。

画像2

良いぶどうを栽培するために欠かせない土づくりは、地元の有機農業研究会の方達と一緒に研究を重ね、新たな栽培法にチャレンジ。他にも、日照時間、気候、地層、水について・・・。世界で戦えるワインを作るという信念のもと、決して、感覚値ではなく、論理的にワイン作りの精度を高めていくさまは、まるで科学者のようです。

そんな日々の苦労と研究、繊細なテロワールが合わさったその先に・・・。人間の情熱や叡智と、自然の豊かさによって生み出されたのが都農ワインでした。

月とワインの関係性を探って。

画像3

「2004年から、月齢とぶどうの定点観測をし続けています。農作業の暦のひとつに、月のみちかけを採用しているんです。以前、有機農業研究会の農家さんから、月のリズムと植物の生育リズムに相関がありそうだ!という話を聞いたんです。そこから私たちの畑でも記録をとるようになりました。」

実際に、赤尾さんが毎日記録をしている、月齢と畑の観察日記を見せていただきました。

画像4

畑ごとのぶどうの様子や、天候、その日のアクション・・・。1日も欠かすことなく書かれた記録は、1年分だけでも絵巻物のよう!本当に驚きました。

画像5

「もう、日課になってますね。毎日の記録が、来年の自分へのメッセージにもなるんです。」

さも当たり前のように語る赤尾さんですが、16年分の絵巻物のような観察日記を想像すると、気が遠くなるような思いがしました。誠実に、情熱的に、そして好奇心をもってぶどうに向き合っている赤尾さんや都農ワインの方達。そこには一朝一夕では決して真似できない、努力の積み重ねがありました。

月とぶどうが教えてくれる、“おいしい”につながるヒント。

「ぶどうの萌芽は、大潮(新月・満月)に向けて膨らみ、小潮(上弦・下弦)にかけて出芽がはじまります。5月中旬の開花は、中潮(大潮と小潮の間)で咲きはじめ、大潮過ぎの中潮で満開、7月下旬の小潮にかけて、ぶどうが色付きます。本当にパンっと状態が変わるので、面白いですよね。開花がこの潮の時期からずれると後々病気が多発するという経験もしていて、毎年の経験を踏まえて、施肥や草刈りのタイミングを図っているんです。

どんなに良い技術で高品質のぶどうが栽培できても、収穫前の1度の台風でぶどうは、めちゃめちゃになり、ワインの味わいで作柄を考察できないことも・・・。この定点観測+月齢管理の記録があることで、台風前のぶどうの状態が把握でき、どういう経緯でどんなぶどうに仕上がっていたのかを判断できます。」

画像4

ぶどう栽培に適した土地で栽培をしていると、栽培技術や気候の変化などを、ワインの味わいで考察できるそうなのですが、台風などのイレギュラーが多い都農ではそれが難しい。良い年も悪い年も、記録を行うことで、次の一手に活用していく。

都農ワインのおいしさは、台風もテロワールの一つとして捉え、都農の気候風土に寄り添いながら、弛まぬ記録と研究の賜物だったのです。

自然と人の叡智が生み出す、ワインの豊かさ。

月とぶどうが呼応して、おいしいにつながるヒントを与えてくれる。毎年の気候風土の変化によって、二度とは同じワインを作れないけれど、その年ごとに最良の答えを探し続ける、作り手たちの探究心。

ワイン作りについて楽しそうに語る赤尾さんを見ていると、ワインの作り手たちは、自然の繊細さと、緻密な記録が重なる先にある、感動や驚きに魅了されているのではないかと感じます。

そして飲み手もまた、ワインのおいしさに魅了されているわけですが、ワインを語る時に、多くの人が詩的で情緒的になるのは、自然の神秘と、人の叡智が混ざり合うことで生まれた美酒に、感性を刺激されるからではないでしょうか。

画像5

新しいお月見は、月と共に育ったワインを片手に。

「あくまでも一つの要素ではあるのですが、月の観察はワイン作りを支えてくれている大きな柱でもあります。ワインを飲む時に、月や自然に感謝したり、思い出すきっかけになると良いかもしれないですね。満月の夜に、グラス片手に月に向かって乾杯、というのはすごく素敵なシーンですよね。でも、日本酒がいいんですかね?(笑)」

お月見シーズンが近づきつつある、今の季節。月と共に育ったワインを片手に、お月見を楽しむのも良いかもしれないですね!と赤尾さんと盛り上がります。

どこかロマンチックな雰囲気を感じてしまう月の引力と、感性をくすぐるワインは、よく似合います。せっかくなので赤尾さんに、お月見に合う都農ワインをセレクトしていただききました。

・お月見に合うワイン:Hyakuzi エクストラ セック カーボネイティッド

画像6

画像7

シャルドネのスパークリングワイン。ワインの色が、まるでお月のさまのよう。フルートグラスの上から見るとお月さまにも見えます。

画像8

<都農ワイン醸造家 赤尾さんコメント>
ワインは水を1滴も使わない、ブドウそのもののお酒です。 大地と自然の恵み、そして、お月さまにも感謝して作っています。 戦後まもなく、雨の多いこの都農町で、最初にブドウ栽培を成功させた中心人物が、永友百二さんです。私たちはその百二の志を継いで、新たな夢を紡ぎ続けてきました。それが、Hyakuziという名のスパークリングワイン。都農町の物語、そして月のうつろいに耳をすませながらお楽しみください。

秋の満月の夜に、おうちの窓から月を眺めながら、あるいは外で夜風を感じる場所で。都農ワインで乾杯しながら、自然や月の美しさを、遠く離れたみなさんと分かち合えれば、嬉しく思います。

※都農ワインは、こちらのオンラインショップから購入可能です。

新しいお月見を楽しみましょう。

都農町は、今の暮らしに溶け込むお月見を提案する”新しいお月見”プロジェクトに参画しています。

都農町で料理家の今井真実さんと毎月開催しているお料理教室も、今月のテーマは「お月見メニュー」です!お月見仲間として、ゲストとしてbar bossaの林 伸次さんもゲストとしてご参加いただきます。皆様のご参加、お待ちしています🌕

<プロフィール>
都農ワイン 取締役工場長・醸造家 赤尾 誠二さん
1974年宮崎県川南町生まれ、高鍋農業高校卒業後、都農町役場にワイン技師として入庁し、都農町の研究所で18歳からブドウ栽培とワイン醸造をはじめる。1996年の都農ワイン創業時から栽培と醸造に従事。2006年日豪交流事業の一環として、日本若手醸造家を代表して、豪ワイナリーで2ヶ月半の醸造研修。
同年、都農町役場を退職し都農ワインの工場長代理に就任。2016年取締役工場長に就任、現在に至る。


ライター:イツノマ 小林未歩





農の都と書いて、都農(つの)町と読みます。宮崎県の中央に位置する、人口1万人のまちです。「都農町の食材を使った料理教室」「都農ワイン」「ふるさと納税」「道の駅」などを大きなテーマに、都農町の魅力をお伝えしていきます。